No.6 マイクとは

 マイクで録音した音は、電気的に加工された物で、現実の音とは少し違う。
自分の声を録音して聞くと、これが自分の声かと驚き、失望する人が多い。声の直接 音だけが電気的に加工されたからである。
我々は自分の声を声帯・喉から出し、耳で聞き、さらに声帯の振動が頭骸骨に伝わり 、この二つが脳で合わさり自分の声と認識される。自分で聞く自分の声と、他人が聞 く自分の声は違うのである。他人は直接音を空間を通して聞いているのである。
 マイクを通した音を確認してから録音しよう。

ピント 
どのタイプのマイクにもピントがある。指向性や値段には関係ない。
音源に対してどんな方向からマイクを出しても、同じように採れると思うと間違い である。試しにマイクを動かしてみよう、ぼやけた音がはっきりする場所がある。そ こがピントである。ピントの合った音は聞き易く、はっきりした音で、個性が出る。
ピントが外れると音はぼやけ、明瞭度がなくなる。近くで採ってもマイクが遠いよう に聞こえる。

★ 風の吹く日。カメラマンは木の下に位置を決め人物を立たせた。経験的に葉づれの 音が大きくて言葉が聞き取れないことを私は知っている。マイクを上から出しても葉 づれを切れない。一度フレームを見せて貰い、カメラマンに相談した。人物を一・二 歩前に出し、木の下からはずす映像ではイメージがだいぶ変わるだろうかと。つまり 、これだけで葉づれをほとんどカット出来る位置になるから、話がはっきり採れるこ とになる。葉づれをぼかし、話にピントを合わせたことになる。

レベル
 録音機やカメラにはVU計が付いている。計器は目安と考え、耳で判断して録音す る。マニュアルを読み計器万能主義でいくと失敗する事がある。音は全てが同じでは ない。小さな音、大きな音、繊細な音、響き渡る音、などなど千差万別である。レベ ルの振れ方も、また同じである。

距離感
 物理的に感応した音を電気的に変えるだけのマイクゆえに、単純に音の距離感を表 す事が出来る。TVでは音に距離感を出さず、平面的であるが、映画では人物の位置 関係などをマイクの距離で表現している。距離感はレベルの問題ではない。近くで採 った音を小さな音にしても(レベルを下げても)、遠くの音にはならない。音源から マイクまでの空間を表現できるから、音の遠近感を出せるのである。TVだから出来 ないのではなく、やろうとしないだけである。

 音は感情を表現できる。役者のセリフは感情を込める。笑い、泣き、怒鳴る。我々 もそれを受け止めなければならない。大きな声は大きく、消え入るような声は小さく 、しかも、明瞭に聞こえるセリフとなるマイクポジションを確保できる<腕>を磨か ねばならない。
 声に出る感情は、演技とはいえ時にその人の本質を出してしまうことがある。声の 響きに素直さや気の強さ、おごりなど性格が表れてくる。

 マイクで採った音は、生の音を電気的に変えた物であるから、元の音とは違う。周 波数の全てを記録できない。大き過ぎる音も小さ過ぎる音も記録できない。もし出来 たとしても人間には聞こえない範囲があるから意味がない。電話の声は必要な範囲の みで音を再現しているいい例である。
録音時に限界があり、再生する時のスピーカー・アンプにも限界があるからどんなに 忠実に再現されるとしても、元の音とは違うことになる。映画のフィルムは光学録音 であるから性能がさらに落ちる。現場で採った音の8割位しか再生できない。