HD Underwater System

自作水中ハウジング・ DIY

HD Underwater System『Wadatsumi-ZERO』

(エイチディー アンダーウォーター システム 『わだつみ-零式』)
簡易HD水中撮影システム




※ 12月に入り急にバタバタしてきてしまい、なかなかテスト撮影が出来ませんでしたが先日仕事先で海苔養殖風景の撮影がありましたのでテストがてら撮った映像です。天気はよかったのですが、風があり少々波がたっていました。本体とカメラで4キロほどの重さがあるのですが、予想通り浮力がかかり程よい操作性でした。海が荒れた翌日だったせいかあまり透明度がよくなかったのが残念です。

○ 構想

水中カメラハウジングを自作してみました。昨今は、SANYOのXactiやコンデジ等動画が撮れて防水機能を持った商品や、民生用のビデオカメラにも専用の水中ハウジングが用意されているものあります。しかしそれらに共通するのは、撮影者本人も水中に入らなければならならない仕様がほとんどです。更にほとんどのカメラは撮影中の映像外部出力ができない仕様なのです。(おそらく、外部機器と接続する為にコネクター部を晒してしまい、防水の役目を果たさなくなるからではないかと思われます)ダイビングをする訳でもない私には少々腰が引ける形態です。当初は、そういった水中仕様のカメラを竿の先に取り付け、「感」で撮影すればいいとも考えていたのですが、外部モニターができないとやはりコントロールに不自由しそうです。あれこれと探しましたが、結局こちらの要求を満たすカメラを見つける事はできませんでした。

そこで自作するしかないとの結論に至りました。今回、構想したのは、一般の小型HDビデオカメラを使用した吊り下げ式簡易水中撮影装置です。イメージしたのは「まめカムHD」のような小型カメラを長い竿の先に取り付けて、更にカメラ自体をハウジングに収納し、水中でも使用可能とする。それはちょうど昆布漁で漁師さんが使う竿のようなものでしょうか。陸上ではカメラ単体でまめカムのように使用でき、更に同じカメラをハウジングに収納し水中も撮影できる・・・こうして一石二鳥を狙った訳です(笑)




北海道ー昆布漁風景 イメージはこんな感じでしょうか(「菅江真澄の旅」より 撮影 重枝)

まずカメラとして眼を付けたのがSONYの「HDR-CX170」でした。このカメラとにかく小さい!そして安い!今回の構想にはピッタリのカメラです。

しかし、実機を見てひとつ問題が浮上。最近のSONYカメラに増えているA/Vリーモート端子である。一見スイッチ操作や映像出力が一本にまとめられて便利なのだが、今回のように数メートル先からコントロールしなければならない場合に必要な長さのA/Vリーモートケーブルが無いのである。延長することが可能だとしてもコンポジットでの映像出力ができない・・・A/Vリーモート端子をLANC端子に変換するケーブルはマンフロットから販売されているので、映像の出力はHDMI端子からとも考えたが、これが端子位置が悪く、写真の様にに液晶モニターパネルとプラグが当たり、パネルを閉じた状態に出来ないのである。


HDMI接続状態ではどうやっても液晶を閉じる事はできません

これでは水中ハウジングが必然的に大きくなってしまいます。使い勝手を考えたら、なるべくコンパクトであるに越したことはないでしょう。現在、国内ではA/Vリーモートをコンポジット出力とLANC出力に変換するケーブルがありません。(国内でも一ヶ所製造しているところが過去にありましたが現在は無いようです)そこに救いの手が。カナダのPRO-LANCというメーカーがA/Vリーモート端子を映像端子とLANC端子に変換してしまうケーブル(STP-01)を販売していたのです。残念ながら国内に販売代理店は無いようなので生まれて初めてPayPalを利用して直接注文してみました。言葉の通じない買い物に少々不安でしたが、難しい事もなく、商品は一週間程で届きました。


PRO-LANC STP-01

余談ですが、私は20代の頃に8ミリの名機と呼ばれたZC-1000というカメラを所有していました。そのレンズ用にCanonのワイドアタッチメントレンズ(C-8)があり、ずっと保管していたのですが、今回このワイドアタッチメントレンズを「HDR-CX170」にステップアップリングをかませて装着したところ、ズーム全域での使用はできませんが6割程度までのズームが可能な事が分かり、これを装着した状態でハウジングを作る事にしました。ワイドアタッチメントレンズ、約30年振りの復活です。これで画角もワイド側に倍近く広くなりました。


C-8 レンズ前の刻印は反射防止のためにテープで隠してあります

○ハウジング制作

制作に入る前に情報収集してみました。その中でアイディア的に参考になったのがこちらの「魚見オンライン」さんのページ。その中の「自作水中CCDカメラ」(今回塩ビパイプのアイディアを参考にさせていただいた)。さっそくホームセンターへ行き、水道関係の塩ビパイプ、ゴムパッキン付継手と透明アクリルを購入。ハウジングの外側はこれで行く事にする。




Vuパイプ継手 ツマミ式掃除口 Vuパイプ継手 ツマミ式掃除口 100mmサイズ ゴムパッキン付 2個
Vuパイプ継手 ソケット Vuパイプ継手 ソケット 肉厚
蝶番式立バンド 蝶番式立バンド 2個
透明アクリル丸板 透明アクリル丸板 5mm厚


各部材の接着、隙間の充填用に、
・タフダイン(塩ビパイプ接着用)
・セメダイン スーパーX クリア(塩ビとアクリル接着)
・セメダイン 水中エポキシ(隙間充填用)
・セメダイン エポキシパテ 水中用(隙間充填用)

アクリルの帯電防止用スプレーとして、
・アクリルサンデー ポリケア

今回、カメラは単体でも使用するので容易に出し入れできるようにしなければならない。
そこでカメラ自体をハウジング内に固定するスライド式の装置を作ってみた。
材料はホームセンターで見かける部材(何の為の物なのかは不明)とプラ板。
カメラを載せる部分はたまたま家にあったものを流用。ワイドアタッチメントとスライド部分が干渉する
為、若干嵩上げしている。
ポイントは後部にロック機構を設け脱落を防止するようにした事。


カーテンのレールか「モール」というものらしいです
レール後部に穴を設け、カメラスライド後部横のバネ式ストッパーが噛む仕組み

そして本体を組み立てます。「Vuパイプ継手 ソケット」の両端に「Vuパイプ継手 ツマミ式掃除口」をタフダインにて接着。しっかりと接着したところで、そのつなぎ目に水中エポキシを充填。レンズ側の「Vuパイプ継手 ツマミ式掃除口」の蓋を外し、「透明アクリル丸板」をスーパーX クリアで接着。こちらの周りにも水中エポキシを充填します。(外したツマミ式掃除口の蓋はそのまま予備蓋として保存)カメラ本体を取り付けるスライド式固定装置を水中エポキシにてパイプ内に接着。(今回パイプやアクリルを接着後に取り付けてしまいましたが、固定装置はパイプ組み立て前に行うべきでした。取り付けずらくて往生しました。)。パイプ内に段差があるので楔(くさび)型のもので水平をとりながら接着剤を硬化させました。


内部取り付け状況

持ち手および竿を取り付ける機構として、これも水道用品の「蝶番式立バンド」(※今回地元のホームセンターではちょうどいい大きさの物が見つからなかったので今の形になりました)で持ち手兼竿の取り付け部を制作。当初、竿取り付け部としての機能しか考えていなかったのですが、これが以外と持ちやすい。簡単に手持ちで浅瀬などを撮影する際は使えると思います。更に、素材が円形パイプなので、置いた時の安定の為ゴム素材でかまぼこ型のものを下部に接着。


ゴム脚

接着剤がキチンと硬化したのち、ここで一度浸水試験を行います。水漏れ等がないことを確認したら、上部にケーブル用の穴をドリルで開け映像ケーブル、LANCケーブル(普通の3.5mmステレオミニの延長コード両端を2.5mmステレオミニのオス・メスに変換したもの)を通し隙間をエポキシパテ水中用で塞ぎます。そのままだと水道管がモロなので、一応ラッカーで外観、内部共に着色。


実に単純な構造です

ケーブルをスパイラルチューブでまとめますが、万が一の脱落事故に備えてワイヤーも一緒に巻き込んでおきます


ケーブルをスパイラルで巻き、ワイヤーを通す

後はLANC端子にコントローラー(Libec ZC-3DV)、映像端子にモニターを接続すれば水中映像をモニターしながらコントロールできるようになります。


結線し、カメラをセットします.ズームと録画スタート・ストップはLibec ZC-3DVを使用

この辺で自宅のお風呂にてカメラをセットし浸水テストを行いました。まずゴムパッキンにグリスを塗布し、蓋を閉めます。そして本体を水の中へ沈めます。リモートにてスタート・ストップ、ズーミング共にテスト。撮影時間は5分程でしたが、結果は問題なく撮影することができました



更に知り合いのプロダクションからいただいたマイク用の竿(伸長時約4m)、・・・と言っても実は旗竿なのですが・・・これに金属部材とネジでハウジング本体を吊るす形にする。





水の抵抗が少ない条件ではこの「一点吊り」で良いが、早い水流や波の抵抗を受ける場合も想定し、オプションとして2点で支える構造にもしてみました。こうすることでハウジングの角度を固定でき、水中にてアオリや俯瞰撮影ができるようになる訳です。支点位置を前後逆付けすれば同じ長さでも方や俯瞰になり、方やアオリになるという寸法です。


斜めの部材は長さを3種類用意しました
写真の状態は竿を垂直に降ろしていると仮定すれば、やや下振り(俯瞰気味)となる訳です

これで完成です
○注意点としては、

・アクリルは非常に傷つきやすいので取り扱いは慎重に行うこと。
 (前面のキャップをアクリル保護の為に自作した方がいいです)


前面キャップ

・ツマミ式掃除口のゴムパッキンは普段取り外して保存し、使用する時にはグリスを指で全体に馴染ませてふたたび掃除口へ装着する。そして使用後はゴムパッキンを外し、石鹸等で優しく水洗いしてから保存する。傷や劣化は浸水原因の元となります。このゴムパッキンがこのシステムの生命線になります。


前面キャップ

・使用時には内部にシリカゲル等の乾燥剤をカメラと共に入れ、アクリルの曇り止めとする。(シリカゲルは1キログラムの袋入りを、100円ショップで見つけたストッキング素材の「排水溝用水切り」へ適量入れて使用)


乾燥剤シリカゲルを水切りへ入れる

・カメラのメイン電源を外部からON・OFFは出来ないため、装着する際にメイン電源はONしておく必要があります。・フォーカス、アイリス、ホワイトバランスのマニュアルもしくはオートの選択は事前に行う必要があります。

○命名

そこそこ愛着も出てきたので名前をつけてあげる事にする。
直ぐに浮かんだのが「わだつみ」。
一応初号機なので零(れい)式。英語表記でZERO。
『わだつみ-零式』『Wadatsumi-ZERO』と命名する。

                                      2010/11/27


Wadatsumi-ZERO

※「わだつみ」とは古事記に登場する海洋神で「綿津見」と表記される。日本書紀では海神豊玉彦(わたつみとよたまびこ)。そして何よりも少年の頃何度も観た小松左京氏原作の映画「日本沈没」(1974)に登場する潜水艇名から敬意をもって拝借した。